096
「やめなよ、ハル!」
どうしてまた、ナツはこういうタイミングでやって来るんだろう。正義の味方、颯爽としたヒーローみたい。
ナツは子供のときからそうだった。小学校の裏山でも、ナツが助けてくれたっけ。
ちょっぴり笑った。しかしそうは見えなかっただろう。血がにじむ唇をほんのわずかに曲げることができただけだったから。
ナツは私とハルの間に割って入った。私のありさまに眉をしかめ、私の服がもはや肌を隠す用をなさないことを見て取り、羽織っていたモッズパーカを脱いで、私にかぶせる。そのまま、私の体をかばうような抱くような姿勢でいた。
「どいてナツ。互いの合意の上でやっていることなんだよ」
ハルが冷静に言葉を返す。
「でも!」
ナツが反駁する。どうにか私は口を動かした。
「こうされたいって自分で言ったんだ。私には当然の報いだよ」
ハルをたくさん傷つけたから。裏切ったから。断罪され、裁かれ、罰せられる人間なんだ。
だがナツはきっぱりと、明快に否定してのける。
「そんなのまちがってるよ。第一、ハル、今きみは激しく自分を傷つけてる。あとでかなしむのはきみ自身だ。頭を冷やしなよ。
まったく、なんておばかさんなんだろう、きみたちは」
「私は、おしおきされないといけない。みんなの言うとおり、魔物なんだよ私は。かかわった人間を次々に不幸にしていく。
だから、もうきみたちは私の前に現れないほうがいい」
「ほっとけるわけないじゃないか! きみがどんなに迷惑がっても、絶対にひとりにする気はないからね。
アキは悪魔なんかじゃないよ。きみに関係した人間がだめになったのは、それこそ当然の報いってやつだ。相応の非道なことをしたんだもの。自業自得さ」
私はとっさに、体の痛みも忘れて上半身を起こした。
「ハルは? 私に何も悪いことしていないのに? ハルのことを不幸になんてしたくなかった。これっぽっちもなかったんだよ?」
ハルが、不意をつかれた様子で全身をこわばらせた。
「何、言ってるの。今さら」
私は歯がみした。失言を悔いた。そのとおりだ、こんなことを告げてどうなるんだ。
ナツのぬくもりと、昔から変わらない態度に何かがゆるんだのか、つい、秘めておくべき心情がするりとこぼれ落ちてしまった。
「アキが嘘つきなのは、今にはじまったことじゃない。ずっと前からわかってたじゃないか、ハルだって。
アキはだますんだ。他人も、自分も。他人のために、自分を犠牲にして、あざむくんだ。たとえ孤独になろうとも、ひとを守ろうとしてひとを遠ざけるんだ。
食べ物がたったひときれのパンしかなかったら、おなかがすいていないと言ってほかのひとに与える。どんなに餓死しそうになっていても。それがアキだ。
とっくに知っていただろう? ハル」