ふるふる図書館


082



「あれ、アキは?」
「奥で休んでる。やっぱり大事を取った方がいいと思うんだ。病院には行かないって言っているけど」
「ふうん。何か変わったことない? だいじょうぶ?」
「うん。そっくりそのまま昔のアキだ」
「そうか」
「あのね、ナツ。正直言って、どうしたらいいのかちょっと困ってる。アキが子供になってしまったときもそうだったけれども、ようやく今の関係を築くことができた。でも、アキがもとに戻って、どう接すればいいのか、またわからなくなってしまった」
「わかるけど、あまり深刻に考えない方がいいよ。アキはぼうっとしているようでいて勘が鋭いところがあるから、ハルの感情も見抜くよ」
「そうなんだ、だからよけいに態度が不自然になる。アキを不安にさせてやしないか、心配になる」
「いっそ、正直に話してみたら? アキはアキで、ハルにどういう態度を示せばいいのか戸惑っているかもしれないしさ」
「なるほどね、むずかしそうだけど、そうしてみるよ。
 ねえ、アキは、僕のことを友だちだと思ってくれているのかな。どんなにちっぽけでささやかでもいいから、レンズごしでないと見えないほど小さくてもいいから、アキにそういう気持ちがあればいいって悩んでしまうんだよ」
「自信持ちなよ。ずっと一緒に過ごしてきたんだよ。おれたちが築いてきたのは、そうたやすく壊れる関係じゃないよ。照れくさい言葉を使うと、『絆』っていうやつが、ちゃんとあるんだから」
「絆か……。そうだね、そうだよね。なんだか元気が出てきた。ありがとう、ナツ」
 いくらそこに絆がないように見えても、レンズでのぞけば確認できるよ。
 もしけんかしたとしても、感情のいきちがいがあっても、何度でもやりなおすチャンスはあるよ。生きてさえいれば。
 きっとおれたちは、みんなで幸せになれるよ。あきらめないで、そうなろうよ。
 この、ねじれてゆがんだ運命を、三人で抜け出そうよ、打ち砕こうよ。

20060630, 20141006
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