065
ぼくははっと目をひらいた。
「よかった、熱もだいぶひいたね」
「一時はどうなるかと思った」
ハルちゃんとナッちゃんが、ほっとためいきをついた。
ぼうっとしたまま、しばらくふたりの顔を見つめた。
すぐにあることに気づいて、ぼくはぽろぽろと涙を落とした。
あのひと、どこにもいない。
死んじゃったんだ。
ごめんなさい。あなたが嫌いだったわけじゃないの。怖かったんだ。また奥底に閉じこめられるのが。忘れられるのが。淋しい気持ちになるのが。だから逆らった。
もうひとりのぼくが消えちゃったから、熱が下がったんだ。
死ぬときは一緒だったはずなのに。そうすれば独りなんかじゃないって思ったのに。
ああ、殺しちゃった。
弱ってぐったりしていたぼくに、あのひとは言った。
「もう、私がいなくても、孤独にはならないよ。いい、一、二の三、で目をあけるんだ。
そうすれば、きみを守ってくれるひとがいるから。私がいなくなっても、だいじょうぶだから」
ごめんなさい。ごめんなさい。
ぼくがわがまま言ったからだ。
ほんとうは、あのひとのほうがずっと弱かったんだ。
なのに、結局ぼくのことだけ生かした。自分を犠牲にして。
あなたの望みは、かなわなかったじゃない。ふたりの思い出の中に今のまま残りたかったんでしょう。ぼくをここに置いていったら、何にもならないじゃないか。あなたはそれでよかったの? どうしてひとりで何もかも背負いこもうとしたの?
ふたりの戸惑いをよそに、ぼくは長いことすすり泣いた。
20060526, 20141006