048
大学で友人にたずねられた。
「チナツの友だち、最近見かけないけどどうしたの? ほら、すごくきれいな男の子がいたよね、ふたり」
「ちょっと事情があってね。しばらく来られないかもしれない」
詳しく話したくないので、お茶を濁した。
おれたちはよく三人一緒にいた。
連れ立っていると、向こうから来るひとはこちらをのぞきこみ、歩き去るひとはこちらを振り返る。
それほど容貌が水際立っていた。ハルもアキも。
三人で出かけることはあまりなかったけれど、街に繰り出せばみんなの目を釘づけにするのはいつものことだった。おれはひそかに誇らしささえ感じていた。男女問わずまぶしげに、または恥ずかしげに、あるいは驚異、それとも好奇の視線をもってこちらのことを意識しているのがありありとわかるのだった。
人目に立つことを、ふたりは望んでいたのだろうか。
ハルは、ひとに見られ、ひとから奉仕されることに幼いころから慣れていた。だから他人の注視など空気と同等のように、泰然と受け止めていたのかもしれない。
アキは、その美しさのせいで我が身に不幸と災厄を呼び寄せてしまっていた。だけど俗で下世話なものなど蔑むかのように、平然として動じなかったのかもしれない。
口数の少ないふたりの代弁者を気取って、おれひとりが子供のときからでしゃばっていた。しゃしゃりでてばかりいた。
ああ、なんて愚かなんだろう。差し出がましいんだろう。おれは自分の浅はかさに失望する。
おれがふたりのためにと思ってしていたことは、みんな、余計なお世話だったってこと? ハルはおれを頼ろうとせず、アキはおれの前から姿を消したのは、おれに原因があるってこと?
「ねえ、ひとの話聞いてる? チナツ。ぼうっとして」
「あ、ごめん。何?」
大学のカフェテラスで、おれは目の前にいる友人に意識を戻した。彼はためいきをつく。
「あのふたりが今身近にいないんだったら、こちらにも好機があるかなってきいたんだけど」
「好機って?」
「チナツのことを狙うチャンスだよ」
「は?」
おれはおどろいて素っ頓狂な声を上げた。
「チナツに気があるやつは、かなり多いんだよ。気づかなかったの?」
「気づかなかった」
「いつだってみんなの注目の的じゃないか」
「それは、ハルとアキのほうだろ」
おれはやにわに立腹した。自分が、ふたりと釣り合いが取れる容姿であることをよろこぶ前に、ふたりの価値を不当に下げられたような憤りをおぼえたのだ。
「もちろんそれもあるよ。あのふたりがいつもそばにいたから望み薄なのかとみんなあきらめていたんだよ」
「それって、おれがふたりの恋人なんじゃないかっていう疑いがかけられてたってこと?」
頭がくらくらした。ひどい誤解だ。屈辱さえ感じるほどの。
「いや、そうとは限らないと思うけど、彼らにかなうわけがないって及び腰にはなるよ。チナツは、あのふたりとは友だちで、恋愛関係はないんだね?」
「当然だよ」
力強く断言すると、彼はうれしそうな表情を浮かべた。
衝動にまかせて言ってやりたいのを、どうにかぐっとこらえた。友人が恋人に決して劣る存在なのではない、むしろ逆なのだということを。物理的にそばにいなかろうが、そんなことはまったく無関係なのだということを。
たとえ、自分が誰かと恋に落ちることがあっても、結婚することがあっても、いちばん好きなのはハルとアキだけで、それはずっと変わらないと思う。
身も心も捧げつくすほどの純粋な思いを、ほかの者におぼえることなど、もう一生ないのだと思う。