ふるふる図書館


040



 ナッちゃんの家でお茶をごちそうになった帰り道。
 ぼくは、あまりアパートから出ないので気がつかなかったけれど、街はクリスマスの飾りつけが始まっていた。
 ナッちゃんとたくさん遊べてうれしかった。ハルちゃんとふたりで焼いたケーキをおばさんにほめられたのも。
 ハルちゃんと並んでにぎやかな街を歩くのも楽しくて珍しくて、ぼくはずっと声をはずませてハルちゃんに話しかけた。
「わあ、見て、きれいだね」
「大きいねえ、あのツリー」
 ハルちゃんは、ひとつひとつ相槌を打っていたけど、そのうちにこう言った。
「そうだ、これからクリスマスツリーを買いに行こうか」
「えっ? ほんと? やったあ」
「もちろん、あんな大きいのは買えないけど」
 レストランの前に置いてあるもみの木を指さして、ハルちゃんはすまなそうな顔をした。
「ううん、いいよ、小さくても」
 ぼくはわくわくして、ハルちゃんの手をつないだ。そのとたん、ぼくから逃げるみたいにして、ハルちゃんがふるえた。
「あっ」
 やっぱり、ハルちゃん、ぼくのこと嫌がってる。どきんとしてあわてて離そうとしたら、逆にぼくの手をぎゅっと握り返してくれた。
 こわごわと顔を見たら、ハルちゃんは赤くなって、つないだ手ごとぼくの手を自分のコートのポケットに入れた。
 ハルちゃんの手、どうしていつもそんなにあったかいの?

 買い物をすませてアパートに戻り、さっそくツリーの飾りつけをした。
 金色のベルに、赤いリボン、松ぼっくり、豆電球、それから仕上げは、てっぺんのお星さま。
 部屋の明かりを消して、イルミネーションをともした。色とりどりの光がちかちかとまたたいて、ぼくはうっとりと飽きずに眺めた。
 ハルちゃんとふたり、しばらく黙って光を見つめていた。
「アッちゃん、あのてっぺんに飾るお星さまを選ぶのに、ずいぶん悩んでたね」
「うん。肝心でしょ」
「僕はね、一所懸命生きていれば、誰でもお星さまをつかめるんだと思う。そのひとだけのお星さまを。アッちゃんは、アッちゃんだけのお星さまを手に入れることができるんだよ」
「ハルちゃんは? もう持ってる?」
「うん」
「どんなの?」
「きらきらしていて、どんなときでも輝いてて、光が澄んでいて、誰も傷つけることができない大事な大事なものだよ」
「いいなあ、ぼくも見たいなあ」
「うん。そのうち見せてあげるね」
 ハルちゃんの指が、ぼくの髪をふわりとなでた。
 いつか、ぼくもつかめるだろうか、ぼくだけのお星さま。

20060507, 20141006
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