ふるふる図書館


037



「ねえ、それから? どうなるの?」
 ぼくは続きが知りたくて、ハルちゃんにねだった。ハルちゃんは微笑んだ。
「でも、そろそろ寝ないといけないでしょう? また明日読んであげるね」
「はあい」
 ぼくはちょっと口をとがらせながらも、ふとんにもぐりこんだ。横に寝ころんで本を読んでくれていたハルちゃんは、立ち上がって明かりを落とした。
 部屋の中に、オレンジ色のランプの光が広がる。
 ぼくのふとんは、いつもハルちゃんのベッドの隣に敷く。でも、ぼくが起きているうちにハルちゃんがベッドに入るのを見たことがなかった。
「ハルちゃんは、まだ寝ないの?」
「うん、もうちょっとしたらね。先におやすみなさい」
「はい。おやすみなさい」
 ぼくはまぶたを閉じた。

「アッちゃん?」
 呼ばれて、ゆさぶられて目がさめた。
 そこにいるはずの、ハルちゃんの顔がよく見えない。ハルちゃんの指がぼくの目もとをぬぐってくれてようやく、心配そうにしているハルちゃんの顔がわかった。
「怖い夢でも見たの?」
 聞かれて、せっかく拭いてもらった涙がまたどっとあふれた。
「大勢のひとにいじめられるの。子供にもおとなにも。何にも悪いことしてないのに」
 ふとんを握りしめてふるえていたら、ハルちゃんが髪をなでてくれた。
 ハルちゃんは、この間はぼくのことをぎゅっと抱きしめてくれたのに、それ以外はこんなふうにそうっとそうっとぼくに触る。どうしてだろう。
 でも、ハルちゃんがぼくに触れてくるやりかたはいつでもやさしくて、ぼくは安心してしまう。なんだか、泣きたくなってしまう。
「それは、夢だよ。ほんとうのことじゃないんだよ。だってアッちゃんはいい子なんだもの」
「あのねえ、ハルちゃん」
 ぼくは思い切ってお願いした。
「一緒に寝てほしいの」
 わがまま言っちゃいけないけど。でも。ハルちゃんだったら受け入れてくれるかもしれない。
「ここで?」
 ハルちゃんは目をまんまるにした。ああ、やっぱりだめなんだ。ハルちゃんを困らせたら、ぼくは追い出されちゃう。
「ううん、いいの。ちがうの。ごめんなさい」
 ぼくはあわててふとんを頭まですっぽり入るようにひっぱり上げた。ハルちゃんが怒っていませんようにとお祈りした。
 ふとんをめくられた。
「もうちょっとつめてくれないと、僕が入れないよ」
 そう言って、ハルちゃんはぼくの隣にすべりこんできた。
「ふたりだと、せまいね」
「でもふたりだと、あったかいよ」
 うれしくて、胸と体がぽかぽかした。そうしたら、とろとろと眠気がおそってきた。
「ねえ、さっきのお話の続き、知りたい?」
 ハルちゃんが耳もとでささやいた。
「最後はね、みんなで幸せに暮らすんだよ。いつまでもいつまでもね」
 声に耳をかたむけながら、ぼくも、幸せな気持ちのまま眠りに落ちた。

20060503, 20141006
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