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親愛なるハルへ。
ナツにも同じ絵はがきを書きました。
前もって伝えたとおり、私は、母の生まれ故郷に来ています。
私は、母と同じ人間になるまいと思っていたのに、逃れることはできないことがわかりました。自分が背負った業から。
きみたちに害悪をもたらすことのない道を選びたいのです。
もしも、きみたちとともにいることが許されるような私になれたら、きっときみたちの前に現れるでしょう。
それが叶わなかったら、このはがきをきみたちに送ることにします。
もしも私がきみたちのもとに戻らず、はがきだけがきみのところに届いたのなら、私の身に何か起こったのだと考えてください。
この文書を遺言だとみなして、私の荷物をすべて燃やしてください。
皮肉なものですね。
私は、自分の生きてきた証拠をひとつも残さずに消えていきたいのに、きみとナツにこのようなことを依頼するためにふみを寄越すなんて。
きみとナツには感謝してもしたりないのに、最後にわがままをとおそうとする私を許してください。
きみとナツのご多幸を衷心からお祈りします。
アキより。
20060615, 20141006