ふるふる図書館


007



 私のことは、他人事。
 誰にとっても、他人事。
 私にとっても、他人事。
 そのはずだったのに、いつからか、壊れた。
 壊したのは、ハルとナツ。
 それは幸福なこと? 不幸なこと?
「なんで? なんでアキはいつもそうなの? 平気そうにしてるの」
 泣いているナツ。
「アッちゃん、どうして、他人事みたいにしてるの。アッちゃんのことなんだよ」
 かなしそうなハル。
 平気だからだよ。他人事だからだよ。
 答えたいのに、なぜか声がのどにはりついた。
 無罪を主張しなくては、給食費を盗んだ犯人にしたてあげられる。クラスの連中の陰謀にはめられたのだ。
 弁護する気持ちは起こらなかった。私は黙って、教室に立たされ、教師の糾弾を聞いていた。
 同級生のくすくす笑いとともに。
 かわって義憤の声を上げたのは、ハルとナツだった。
「先生、アッちゃんはそんなことしません」
「先生、見て、この手紙に書いてあるでしょ。アキに濡れ衣を着せてやろうって。計画的な犯行なんだ」
 ふたりが証拠を挙げたので、私は放免された。
 よかった、とふたりは涙ぐんでよろこんだ。不思議な光景だった。
 なぜ、私を他人事にしておかないのだろう。
 私は、私のことを考えたくなかった。
 考えてしまえば、私の内面はまた淀む。濁って、腐って、もっと醜くなる。
 どぶどぶの汚泥、へどろばかりのぬかるみ。
 ハルもナツも、そういう人間になれと言う。
 ふたりとも心の底からきれいだから、そんなことを口にできるんだろうと私は思った。
 私は、ふたりとはちがう。
 きみたちまで汚れちゃうよ、だから近寄らないで、ハル。
 そのままでいてほしいから、そばに来ちゃだめだよ、ナツ。
 ハルとナツを避けた。ふたりを傷つけてまで逃げたかった。楽になりたがった。
 ああ、私はやっぱり、私のことばかりを考えているんだ。そのことに気づいて、吐き気がした。
 いったいどうしたらいいんだろう?
 吐いても吐いても、体の奥にたまった澱は、ちっとも抜けていってくれない。

20060411, 20141006
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