002
雨が激しく降っていた。天と地を縫い合わせる太い糸みたいに見えるほど。
朝から降り出したのに、帰りになってもやむ気配がなかった。
黄色い傘、黄色いレインコート、黄色い長靴。
過保護な母親のせいでこんな重装備になってしまったけれど、どんな水たまりも平気でざぶざぶ歩けるのが、幼い僕には楽しかった。
煙ってかすむ視界に、アキの姿を見つけた。全身ずぶぬれだ。
「アッちゃん? 傘は?」
びっくりしてたずねると、アキは校庭のすみを指さした。
そこには、アキの青い傘。
傘の下には、理科の授業で僕たちが植えた、まだ小さくかよわいひまわり。
豪雨で今にも折れそうなひまわりが、広げた傘を支柱にして立てられていた。
「待って!」
僕は雨音にさらわれないように、精一杯声をはりあげた。
「風邪ひいちゃう! 僕の傘使って!」
「いいよ」
アキはいともあっさりと断った。けろりとした、なんでもないような顔で歩み去ろうとする。
「僕はレインコートがあるから、ね、この傘持ってってよ!」
「だめだよ、そんなことしたら、ハルがお母さんに怒られる」
「じゃあ、僕がアッちゃんを家まで送ってくよ、それならいいでしょう!」
意地のような気持ちになって僕は言いつのった。
「ほんとうに、いいんだよ」
感情のこもらない返事だった。びしょびしょのアキの頬を伝う水滴が、涙のように思えてどきりとした。
「あんなの、ハルが来るようなとこじゃない」
それを聞くと、突然かなしくなった。無意識にアキの手を取った。はっとするほどひんやりとした感触。
「どうして……」
アキがつぶやいた。
「どうして、ハルの手はいつもそんなにあったかいの?」
答える間もなく、アキは僕をふりきってどしゃ降りのカーテンの中を駆け出した。
「アッちゃん、絶対に風邪なんてひかないでよ! もし学校を休んだりしたら、僕、アッちゃんの家までお見舞いに行ってやるからね!」
アキ、僕はいつもこの手の熱さが恥ずかしかった。
きみとの温度差を感じてしまっていたから。
でもあの雨の放課後、僕はきみに、少しでもぬくもりを伝えることができただろうか?