ふるふる図書館


001



 最初に生まれたのはハル。
 次に生まれたのはナツ。
 最後に生まれたのはアキ。

 春の新芽のようにやわらかくて繊細で傷つきやすいのがハル。あたたかな心を持つ千温(ちはる)。
 夏の太陽のようにまぶしくて明るくて華やかなのがナツ。人なつっこくおおらかな千懐(ちなつ)。
 秋の空気のように涼やかでひややかなのが私、アキ。千空(ちあき)。あきっぽいアキ、あきらめの早いアキだ。

「秋の空気のように透徹していて、凛としていて、誰にも媚びたりなんてしないのがアキでしょう。そんなところが僕は好きなんだ」
 ハルはそう言う。
「アキはものごとに執着しないよね。だけどそれはあきやすいからじゃない。だってほら、おれたちのつきあいはもう十年以上も続いてるんだから」
 ナツはそう言う。
 ふたりとも、私を気遣ってくれる。

 ハルもナツもわかってはいないんだ。
 私がなぜ飄々としたふうを装っているのか。無欲恬淡としたうわべを演じているのか。
 けっして知られてはいけない。失いたくないから。ハルも、ナツも。
 こんなにも欲ばりで、あさましい人間なんだよ、ほんとうの私は。

 ねえ、ハル。
 ねえ、ナツ。
 私は出会ってはいけなかったのかもしれない。
 だけど、いつまでも続けばいいとそればかりをひたすら、祈るように願っていた。
 ねじれた、ゆがんだ、でもとてつもなく幸福な関係が。

20060408, 20141006
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