ふるふる図書館


おまけ

今そこにある孤独



 眼がさめたら、誰もいなかった。
 本を読んでいたら、うっかり、こたつでうたた寝してしまったらしい。
 いつもにぎやかなはずの家の中はしんと静まり返っていた。
 まるで見知らぬ家にワープしてしまったみたい。
 でも、まぎれもなく、自分の家だ。日曜日の午後の。
「あっくん、ゆーちゃん、どこ?」
 呼んでも、返ってくるのは沈黙だけ。
 こたつから、もぞもぞと這い出した。子供たちしかいないときは、火事になるからストーブをつけてはいけません、という母の言いつけを忠実に守っていたせいで、寒かった。
 それが少しも気にもならなかった。
「あっくん! ゆーちゃん!」
 大声を上げながら、家じゅうを歩き回り、探し回った。どこにもいない。
 最後に、思いついて玄関に行った。ふたりの靴が消えていた。
 置いてきぼりを食ったんだ。寝ちゃってる間に。
 泣きそうになった。
 どうしてうたた寝なんてしちゃったんだろう。
 どうして起こしてくれなかったんだろう。いつでも三人一緒だったのに。
 自分の靴だけが一足ぽつんと並んでいるたたきを、ぼんやりと眺めた。
 自分はどうなんだろう。あっくんを置き去りにしてゆーちゃんとどこかに出かけたことはなかっただろうか? あっくんとふたりしか知らない、ゆーちゃんには秘密にしていることなんかひとつもないだろうか?
 ずっと、三人一緒にいられることは、ないんだ。
 そう発見したら、ほんとうにびっくりして、ほんとうにさびしい気持ちになった。
 眠りからさめて、ふたりがいないと知ったときよりも。
 話し声がきこえて、玄関の扉がひらいた。
「あれ、起きたの?」
 ゆーちゃんが笑った。
「ほら、買ってきたよみかん。さっき食べたいって言ってたよね。物置に取りに行ったら、もうなかったんだ」
 あっくんが、みかんの入っているスーパーマーケットの袋を見せた。
 歩いて五分ほどのスーパー。だからふたりは、寝ている自分を起こさず、そのままにして出かけたんだろう。
 自分がうとうとしてしまったのは、ほんの数分ばかりのことだったらしい。
 眼がさめなきゃよかった。
 もう少し、眠っていればよかった。
 そうすれば、あんな発見をすることはなかったのに。
 いずれ、気づいてしまうとしても。
 しばらくは、三人でいるのが当たり前だって疑わないでいることができたのに……。

20060219, 20060621
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