ふるふる図書館


おまけ

お正月だよ! めがねまつり



「兄さん。そろそろめがねやめたら?」
「何を言い出すのだ、愚かな我が弟よ。新年早々唐突に」
「新年早々だからだよ。年が改まったのを機にさ。
 もう気がすんだだろ。兄さんの視力知ってるよ。特にあの人の姿なら、たとえ一キロ離れてたって見分けるくせに」
「あの人って誰のことだ」
「ふうん、ぼくの口から言ってもいいの?」
「ぐっ……。
 いやその、なに、あやつの不良きわまる素行を改めようという、生徒会として、かつ同窓生としての責務がだな」
「どこが不良なのさ」
「そんなこともわからんのか。
 学業こそ立派だが、妙な輩とつきあっていたり、ろくすっぽ勉学にいそしもうとしなかったり、とうてい目をつぶれるものではなかろうが」
「ははん。『あの人』って、やっぱりあの人のことかあ。なるほどねーえ」
「うぐっ……」
「おやおや、正月の茶の間でさっそく兄弟げんかか? 仲むつまじくてけっこうけっこう」
「ああ、ややこしい人が来ちゃったよ……」
「うん? どうしたんだね、わたしにかまわずおおいにやってくれたまえ」
「いえ、けんかというほどではないんです。兄さんのめがねの話をしていただけで」
「そうか、わたしも実に気にいってるよ。めがねと素肌のあわいには、おおいなる神秘、無限の宇宙を感じるな!」
「わかってくださるのですかっ?」
「もちろんだとも!」
「ああ、このふたりって似たものどうしだったのか……」
「耳介の上部の二か所、および鼻梁の二か所。このたよりない四点で支えられたあやういバランスもまた、見るものの心を乱し、ひきつけてやまないのだよ」
「ああ、開かれちゃったよぼくにはとうてい理解できない世界の扉が……」
「く、くすぐったいですよ、そんなところなでないでください」
「ああ、もうかってにやってくれって感じだよ……」
「二十一世紀になれば、めがね少年が大々的にブームになる。きみたちの天下がやってくる。わたしにはわかるぞ!
 おお、なんてすばらしき世界。きみは時代の寵児になるのだ!」
「ああ、また壮大な妄想がバラ色に爆発してるよ……」
 ぼくは、ためいきと諦念と疲労感と虚脱感ともに、そっと三ケ日みかんの房を飲みこむ。
 そんな予言が的中するとは夢にも思わない、九〇年代一月のできごとだった……。

20060115, 20060621
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