ふるふる図書館


第22話 トウ・トゥ・トウ toe to toe 2



「もう、怒ってませんよ過去のことだし」
 俺のハジメテをあれやこれや奪われたことも。
「やさしいな公葵は。でもね俺が寄ると拒絶するじゃん。たぶん心の奥底では許してないんだと思うよ?」
 せやろか?
 ともあれ、木下さんから接触しないということは、俺が自主的にやるしかないってことか。木下さんからあれこれ攻撃をしかけられてたころは、ノリというか流れで俺も応戦したり自分から先制したりしてた。けど、起爆装置がほぼ取り払われている今、自発的に襲撃というのは抵抗感が半端ない。
「そういうの不慣れなんですもん」
「ほら、だから彼女作っておけばよかったのに」
 その思考回路がわからん。里美さんとなにをしたかだってあんなに気にして、応援してるそぶりで根掘り葉掘り聞いてきてたし。
「俺が女の子と付き合うのを推奨するってこと?」
「だって。お前女の子が好きじゃん」
「そのまま結婚してもいいってこと?」
「お前がそれを選ぶなら、俺に反対する権利ないだろ」
「俺は、アンタの本心が知りたいんですよ?」
 もーじれったい。ミサトさんだったらシンジ君にビンタしてるよ(新世紀エヴァンゲリオン)! 寝転がっていられず、俺はベッドに起き上がった。木下さんは膝を抱えて、顔を伏せている。膝に向かってしゃべってどうすんだ。
「それが木下さんの本音ならいいです。そういう人なんだと思って、受け入れるよう努力しますから。でも、うそついたり無理したり、はナシですからね?」
 できるだけ、詰問調にならないように問いかける。
「もしも。俺とお前がただならぬ関係になったら。お前が女の子と付き合うチャンス、なくなるじゃん。俺のせいで、お前の人生つぶしたくないからさー」
「そんなの……木下さんはどうなるんですか」
「もしお前がどっかの女の子とくっついたって、今みたくお前と仲よくできればいいし」
「えっ、その程度で満足ですか。俺にあんなに恥ずかしいことを言わせておいて? ひどくないです?」
「ああ、そっか。でもね俺、こう見えても策謀家だから。あとから俺になびかせる手段、たくさん考えられるもん」
「なんですかそれ」
 俺は吹き出した。
「突飛なことよく思いつきますね。そっちのほうが修羅場だし、波乱万丈っぽい感じなんですが。まわりくどいことしないで、最初から俺が木下さんをチョイスすればいいんじゃないですか?」
「俺とお前は上司と部下じゃん」
「うわ意外に常識人だったんですね……。略奪だの不倫だのなんだのより、俺の案のほうがよっぽど平和で穏やかじゃないですか。ちがいます?」
「ちがわ……ないけど」
 いつもの態度と打って変わって小さくつぶやく木下さんの顔が見たくなって、俺はベッドを滑り降り、そばに寄った。住み慣れた自宅だからたとえ暗がりでも支障ない。
「木下さん」
 呼びかけるも応じず、顔を伏せたままだ。夕焼けめいた光をうっすら照り返す、ふわふわの猫っ毛をそっと撫でると肩がぴくっと震えた。ふふふ、不意打ちと奇襲は木下さんだけの十八番じゃないのだ。よしもう一押し。
 気配を察知されないよう、静かに静かに耳に口を寄せ、ささやいた。
「俊介さん」

20150802
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