ふるふる図書館


第20話 トランシェント・トランス transient trance 2



「ブルーハワイってさー、どっこにもハワイ要素ないよなあ」
 まだ始まらない花火の打ち上げを待ちつつメロン味のかき氷をすくいながら、木下さんが指摘した。
「味もメーカーによってばらばららしいしな。お前の、何味?」
「なんでしょうね……。サイダーでもラムネでもないし。ブルーハワイ味? としか言いようが。木下さんのはメロン味するんです?」
「メロンシロップ味かなあ」
「ふーん、俺、かき氷ってブルーハワイしか食べたことないです」
「そんなに好きなんか?」
「好き、なのかなあ。親がいつもこれを買ってよこすんです。『男の子なんだから青いのでしょ』ってなぜか決めつけてて」
 そーゆう問題じゃないですよねえ、と笑おうとして木下さんを見て、ドキッとした。眉を寄せてしょんぼりしている。
「悪かった」
「え、なにが」
「お前が食いたいものをちゃんと聞かないで、それ押しつけた」
「なんですかかき氷くらいでおおげさな」
 たしかに「よく食べた味は」と質問されて「ブルーハワイ」とは答えた。だからって、きらいだとはひとことも。
 ……だけど。
 俺は、ほかの味もほんとは食べてみたかったんだ。メロンだっていちごだってレモンだってみぞれだって宇治金時だって。でも俺を育ててくれてる親が買ってくれるものだから。浴衣は着たくないと泣いたから。ブルーハワイじゃないのがいい、と言えなかった。
 だけどそれは、俺の責任だ。兄貴はちゃんと自分の希望を表明し、通していたはずだから。俺の交渉能力が足りないだけだ。それに心の底から食べたいなら、一緒に祭りに行く友達がいなくてもひとりで買えばいいだけの話なのだ。
 あまつさえ、無関係な木下さんにまでいやみがましいことを言ってしまった。またもや、俺の後先考えなしスキルが発動してしまった。やっぱり、どこかで木下さんに甘えているのかもしれない。
「ほれ、こっち食え。交換」
「って、食べかけじゃないですか。いいですよこれで」
「俺のメロン味が食えないって言うのか」
「アルハラ発言みたいなことしないでくださいよ。俺のべろにさらに緑色が追加されたらどんな色になっちゃうんですか」
 俺は舌を思いっきり突き出した。
「ほえー。みごとに真っ青だな」
 木下さんが、指をのばす。
 えっ?
 っと思う間もなく、その指が俺の舌を撫でた。

20150622
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