ふるふる図書館


第16話 プリティ・スーベニア pretty souvenir 2



「ところでね木下さん。前々から気になっていたことがあるんです」
 おいしそうにサラダをほおばっている木下さんのグラスに麦茶をつぎ足して話を切り出す。当初の計画は、まだ続行できると踏んだのだ。
「ん?」
 料理が口に合うのか、いたくご満悦だ。アンタ傷心はいったいどこに置いてきた。
「いつも俺の話ばかりで……俺も、木下さんの話、聞きたいです。コイバナとか。なにか参考になるかもしれないし」
 俺は、おのが傷心ぷりをアピールすべく、視線を伏せてちょっともじもじ小芝居してみた。
「他人の体験談って、参考になるかねえ」
 う。もっともだ。しかも、よりによって木下さんのだもん、あてになるわけがない。いやはやこうもあっさり論破されるとは。
「それに、聞いて楽しいもんじゃないと思うけどなあ」
「別に、楽しさとかオチとか求めてるんじゃないですよ。木下さんのことが知りたいんですもん」
「でもお前、俺に興味ないだろ?」
「ええ? なんでそんな! そんなことないですよ!」
 心外なことを言われて大きな声を出すと、「まあそういうことにしてやってもいいけどにゃあ」とアボカドの大きな一切れを口に放りこむ。気分を損ねているわけではなさそうだ。
 だいぶぬるくなった自分の麦茶を一口飲んだ。二リットルのペットボトルじゃなくてティーバッグを買ったほうがよかったな、今度からそうしよう。そっちのほうがお得だし。水出しでもそれなりにおいしいし断然楽だし。別に、俺が木下家の家計だとか家事の負担だとかを気にする筋合いはないんだけど。
「俺、恋愛小説とか読まないの、知ってるでしょ。どうにもぴんとこなくって。
 でね、里美さんとのことで、わかった気がします。自分には、そういうの、やっぱ向いてないんだなって。里美さんのこと、本当に好きだったのかと考えたらわからなくなっちゃって。
 じゃあなんで落ちこんだのかなって考えたら、『ふられた』っていう事実にプライドを傷つけられたのかなとか。俺のことを好きでいてくれてると思ってた人がそうじゃなかったからかなとか。俺にプライドがあるなんて、おかしいし。俺のことを好きでいてくれる人しか好きになれないってのも、まちがってるし」
「相変わらず真面目だねえコーキ君はさ。だがそれがいい」
 なぜに「花の慶次」なんだ。
「別にいーじゃん、プライドあったって」
「馬鹿がプライドだけ高くたって、救いようがないでしょ」
「自分を大事にすることはいいことだろお? お前がお前のこと粗末に扱ったら俺は悲しいなー」
 木下さんが、本気でなにかを悲しむなんて、想像できない。ましてや俺なんかのことで。そう言いたいのに、俺にはどうしても否定できなかった。

20120811, 20140904
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