ふるふる図書館


第3話 ギブ・ミー・アップ give me up 1



 俺の言語能力はフリーズした。放送事故よろしく、「しばらくお待ちください」のお詫びテロップが入りそうなくらい。
 木下さんもそちらの人ってことなんだろうか、他人事とは思えないということは。俺にとっては非日常でも、現実として生きている人だっているんだ。
 どうしよう、俺、小説のこと全否定しちゃったじゃん。木下さんを傷つけるつもりはなかったのに。なんで俺はいつもいつもこうやって深慮なく言葉を口に出してばかりなんだ。アサハカすぎる。壊れそうなものばかり集めてしまうガラスの十代(光GENJI)ももう終わりかけてるってのに。
 つか、壊れそうなのは木下さんとの関係だ。修復しなくちゃと気ばかり逸るも、俺の頭は、しばらくKURE5-56を使うのを忘れていたホイールみたいにぎしぎし錆びついて、むなしくぎくしゃくと空回りするばかりだった。
「お前、なんか固まってないか?」
 ふにふにとした声で木下さんが問いかける。あれ、いつもと変わらない。
「いやあのその……どのあたりにシンパシーをおぼえたのかなと」
「まあ、な。こーゆーのっていろいろありえない要素は満載だし、ステロタイプな筋書きのものも多いけどさ」
 木下さんが本を軽く指で叩いた。
「普遍的な要素もあるだろ。ふつうの恋愛小説として楽しめるよ」
「そういえば、木下さんのコイバナって聞いたことないです」
 言葉のやりとりは今までどおりに続行した。どうやら壊れかけなのは徳永英明のラジオだけで、俺たちの間柄ではないらしい。いや、ホッとなんかしてねーけど! にしても、ものっすげー意外だ。木下さんから恋愛の話題が出るなんて。
「桜田のだって俺は寡聞にして存じませんが?」
「俺はだって、若輩者だから経験値が低いですもんっ。話せるネタなんかありませんよ」
「ほんと? 告ったり告られたりねーの? そーゆーブルースプリングなひとこまは」
「なんですかその長嶋茂雄みたいにアヤシゲな英単語」
「んーまああの、そうですね、やっぱりぃ、桜田君のことは気になるわけでね」
 ミスターのものまねまでかましてきやがった。木下さんはものまねが、というか人の特徴を捉えて拡大再生産するのがめちゃうまいのだ。くそ、笑ってたまるか。
 いつの間にやら、俺が尋問を受ける立場になっているじゃねーか。ことによったら木下さんの秘密(?)を暴く羽目になっていたのかもしんねーのに。
 だけど、木下さんがあまりに楽しそうだからよしってことにしよう。誰かのプライバシーに立ち入るのは好きじゃない。だったら俺が質問攻めにされるほうがまだマシだ。

20080721
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