ふるふる図書館


第25話 コンサルタントはむずかしい。2



 こんなもんしかなくて悪いな、と言いながら、木下さんはレンジでチンした冷凍食品のピラフと温野菜サラダを並べてくれた。自炊はあまりしないっぽい。どんなことでもそつなくこなせちゃいそうな人なのに。なぜかちょっとホッとした。
「いいのか、お前の家でも用意してたんじゃないのか」
「いーえ、ぜんっぜん。自分で冷麦ゆでて食え、ですよ。わあよかった、ちゃんと野菜が食えるっ」
 俺は嬉しくて感動して、ローテーブルの上の品々をうっとりと眺めた。
「あはは、冷めるぞ」
「はい、いただきます」
 手を合わせて、ありがたくスプーンを取った。冷凍のくせにうまい。とてつもなく。
「正座してなくていーよ、足崩せよ」
「はあい」
 促した割には、木下さんは自分の分になかなか手をつけなかった。俺の食いっぷりをじっと眺めてる。
「どーかしたんですか」
「ん。かわ」
 言いかけて、なんでもねーとごまかした。なんだろ。
「そうだ桜田。あーんってやってやろっか」
 ぶっ。俺はピラフを吹き出しそうになった。
「ひ、ひとりで食えますっ。俺は介護いりませんから」
「介護ってお前……おもしろすぎ」
 木下さんが苦笑した。さっきから妙にぎこちないな。変だ。
「だって、こないだの苦い経験があるんですもん。ファミレスのっ。あ。いえ、別に気にして、ないんですけど……」
 どうやら俺にもぎこちなさが伝染したみたいだ。

 食べ終わり食器を片づけ、木下さんと麦茶を飲んでいるとき、そのへんの疑問をぶつけてみた。
「どうしたんですか。木下さんのほうが悩みあるんじゃないですか?」
 昼間はうっとうしいほどゴキゲンだったのにな。やっぱりあれか、先刻目の当たりにした家庭の情事、いや事情か。どっちでも変わんねー気がすっけど。
「えと、俺なんかが立ち入ったこと聞いたりするのおこがましいですけど。もしよければ」
「お前が考えてるの、うちの親の再婚のことか?」
 俺はためらいがちにうなずいた。
「うーんまあ、そうだなあ。あたらずといえども遠からずな感じ」
 でも、と木下さんは俺に顔を近づけた。
「お前のを聞くのが先だ。そのために来てもらったんだからな」
 う。
「お前が話してくれたら、俺も言う」
 うう。俺が一歩踏み出さないと、木下さんを楽にできねーのか。

20080114
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