ふるふる図書館


第21話 ジェントルネスはかんちがい。2



「桜田、休憩は? そろそろ取ってくれば?」
 声をかけながら近づいてきた木下さんが、「お。リョーヘー君」とにっかりした。
「こんにちは。昨夜はコウちゃんがお世話になりまして」
 なんだかそれ、いつか聞いた台詞だなあ。
「いーえぇ。楽しかったですー」
 木下さんがうふうふと笑った。酔っぱらいの世話をしたのにそんなこと口にできるなんて、ずいぶん寛大だなあ、実はいい人だったんだなあと思ったら、胸の奥がしくりと痛んだ。
 せめて、これ以上嫌われないようにしなくちゃ。
「うーん。いいのかなあ、こんな人にコウちゃんを託して」
 腕組みしてためいきをついた涼平に、木下さんは相も変わらず上機嫌なようすで顔を寄せた。
「おやま。戦線離脱?」
「待機です」
「俺が何かポイント下がるようなことしたら、それっとばかりに出陣する? へへ、そんなドジは踏みませんよーだ」
「語弊があるなあ。見守るんですよ、木下さんがコウちゃんにひどいことしないように」
「ひどいことなんてないよ、涼平」
 俺はつい口を入れた。
「木下さんは俺にすごくよくしてくれた。昨夜だって。すごく感謝してる」
 ふたりは、ぎょっとしたように揃って俺を見た。
「え。え。それって、それって。わ。聞けない。とてもじゃないけど聞けない」
 涼平が自分の顔を手でおおった。
「変なもんでも食ったか? まだ酔ってるわけじゃないだろーな」
 木下さんが俺のおでこに手を当てた。
「平熱だな。しっかしお前らしくねーぞ。なんかあったんか?」
 俺はただ無言でかぶりを振った。立ち聞きしたことを話したら、木下さんの今までの努力が水泡に帰す。口にチャックしとかないと。なにも知らないふりをしないと。
 器用にとぼけて話題をそらすような芸当は俺にはできない。ここは逃げるが得策か。
「休憩行ってきます。じゃ、涼平、またな」
 離れようとする俺の腕を木下さんが取った。
「気になるじゃんか、そーゆーの。今朝黙って帰ったのもおかしいし」
 やっぱり裏目かよ俺の言動。つくづく裏目の星の下に生まれたんだなあ。俺って馬鹿だ。いや、そーやって自分をおとしめるのがいけないんだった。俺はひたすら頭を横にぶんぶん振った。
「あら。なんだか俺がいじめてるみてーだ」
「いつもいじめてるじゃないですか」
「ちがうんだよ、涼平、そーじゃない」
 あわてて俺は木下さんをかばった。
「いじめるだなんて。嫌いなやつもわけへだてなく付き合ってくれるんだよ木下さんは」
「わけへだててるよ、コウちゃん。現実をよく見て」
「誰が俺の嫌いなやつだって?」
 あ。あっ。ああっ。俺自爆。

20071103
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