ふるふる図書館


第18話 ウーロンハイとよっぱらい。2



 のぼせたみたいに全身が熱くなった。飲みかけに口つけたからじゃなくて。俺、アルコールは……。
「駄目……」
 椅子に座っているのによろめいて、倒れこみそうになった。木下さんが俺の上膊をつかんで止めたから、俺はそちら側にふらっと傾いて、肩に頭がすとんと着地した。
「大丈夫か? 気持ち悪いか?」
 木下さんの声が、じかに俺に響いてきた。伝わってくる肌が震えて、気持ちよかった。体で直接会話してるみたいだ。
「んー、へーきです……。あーなんか、ねむい。それに、あつーい……」
 腕にくったりと寄りかかって、俺はシャツの襟をひっぱりぱたぱたと胸に風を送った。頭がぼうっとする。目がとろんとする。呂律もうまくまわんない。電灯がまぶしくて、まぶたを閉じた。暗闇になった視界を、残像がゆらゆらうごめく。
「ごめんな」
 木下さんが俺の体に腕をまわして支えてくれた。顔にかかった俺の髪を指でかきあげてくれる気配もした。
「なん、で……」
「俺が悪かった。ごめん」
 相変わらず相手の肩に乗せっぱなしにしたままゆらゆら頭を振って、「俺がドジだから……」とつぶやいたことはおぼえてる。
 水を飲まされたりしているうちに、いつしか、とろとろとうたた寝したらしい。夢うつつに、ふたりの会話が耳に入った。
「俺がコウちゃんのこと、送って帰ります。タクシー拾えばいいし」
「もう熟睡してるから大変だろ。俺の家に泊まらせるよ。ここから歩いて帰れる距離だから」
「えっ、それは」
「一緒に泊まって見張る? リョーヘー君は、明日も予備校だろ。今日は早引けしちゃったんじゃないの? だから帰ったほうがいいと思うけど」
 涼平は図星をつかれたのか、ちょっとの間沈黙した。
「木下さんはコウちゃんのこと、大事に思ってるんですよね。うん、わかります。コウちゃんと接してるとき、幸せそうにでれでれしてますもん」
 へらへら、のまちがいだろ。どーいう方向性のプラス解釈だ。
「だから俺……信じますからね。コウちゃんを傷つけたりしないって。俺がいないせいでなにかあって、裏切られたって恨まれるのいやですからね」
 え、涼平、俺を置いて帰っちゃうの?! 猛獣の檻に放りこんで見捨てる気かよ?
 叫びたいのに声が出ない。それどころか、眠ったふりを続ける俺がいる。だって、木下さんの手が俺の頭をそっと優しく撫でてるんだ、起きることなんてできやしない。これはインボーか。
 木下さんの柔らかい声が低く聞こえた。
「……ありがと。涼平君」

20071014
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