ふるふる図書館


第13話 モバイルフォンはあなたしだい。2



 アプリ制限だの、着信拒否だの、よくわからない設定をいろいろしてくれたのも木下さんだった。
「こーゆーのもちゃんとやっておかないとな」
 律儀に責任は取ろうとしてくれてるらしかった。いや、どう見ても人の携帯をあれこれちくちくいじるのが楽しくてたまらないだけのような風情だったが、新しいおもちゃに欣々として夢中になってる子供のようなオモムキだったが、そこは不問に付しておこう。それと、
「げ、なんですかそれ! 恥ずかしいんですけど!」
 めちゃくちゃへんてこりんなアドレスにされたことも。
「ええっ、もう設定されちゃったんですか? ずっとこのアドレスなんですか?」
 俺はマジ泣きしそうになった。
「おぼえやすくていいじゃん。ikemen_kinoshita_san_love」
「わー、やだやだあ!」
 変更がきくというのを知らなかった俺は、ほんとにしばらくそのメアドのままだったのだ。ちくしょう。
 こんな次第であるから、俺の携帯のアドレス帳に真っ先に登録されたのは木下さんのデータだった。
「はい、こことここくっつける。赤外線で送受信できんの」
「うわ、なんだかE.T.みたい」
「お前いくつだよ。ほんとに高校生か。サバ読んでんだろ」
「木下さんだって、リアルタイム世代じゃないくせに」
 ペースにのまれ、このころにはまんまと打ち解けてしゃべれるようになってしまっていた。
「わ、来た来た。すげえ!」
 画面に木下さんのデータが表示された。
「入ったか?」
「入りました」
「ふーん。俺がお前にとってはじめてになったわけかあ」
「なんですかそれ」
「べっつにー?」
 ふやけた笑顔だ。わけわからん。
「そのアドレスに、メールを送ってみ」
「え。なんて送ればいいんですか」
「さーね? うーむ、ここは桜田君のセンスが問われるところですなあ」
 にやにやとプレッシャーをかけてきた。携帯を触ったこともない超ビギナーに対して容赦を知らねえ。
 苦労して慣れないメールを打ち、送信ボタンを押したら、ほどなく木下さんの携帯がランプを光らせながら震動した。
「うっわー、ふつー」
 木下さんは自分の携帯を見ながらバカウケだ。栗山米菓のせんべいではない。
「件名、桜田です。本文、よろしくお願いします。ひねりないなあ!」
 わざわざご丁寧に朗読しなくていい! 声に出して読みたい日本語かっつーの。あまりにもほがらかな笑いに反比例して、俺のぶすっと具合は加速度的に増した。
「うう。もーいいです、それ削除してください」
「ええ? なんで? 消すわけないだろ? お前の人生初メールだぞ。口とんがらかして眉寄せて、一文字一文字、丹精こめて一所懸命打ってたじゃん。この文面にも人品骨柄が表れてるわ。いやー、どこまで可愛いんだお前は」
 うう。人を馬鹿にして。くそう。
「大変よくできました。ふむ、ここまで初物をいただいてなんもしないんじゃ男がすたるな」
 あまつさえ俺の頭をなでくりながら、傷心をおもんぱかりもせず、意味不明なことばかり言ったのだった。

20070902
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