ふるふる図書館


第10話 マッドバイターはにあわない。3



「つくづく愚弟ですみません」
「アズサちゃん、こいつテイクアウトしてっていい?」
 う、説教部屋に強制連行か? 大目玉でも食らうのか?
「明日も学校がありますからねえ。馬鹿は馬鹿なりに学校くらいは行ってもらわないと救いようのない馬鹿にまでとことん堕ちますから」
 ナイスフォローだ兄貴! 馬鹿馬鹿連呼しすぎだけど。
「まあ今日は勘弁しといてやろう。あんま泣かしたくねーしな、今んところは」
 木下さんがいつものようににやりとした。ひえっ怖! 不吉な内容に、軽快かつ敏捷なバックステップで飛びすさった。
「覚悟しとけよ、近い将来きっちり責任取ってもらうからな」
「ええええ。俺が一方的に悪いんですか? そんなっ」
 その台詞になんだかえらくぎょっとして叫んだ直後にはっとした。しまった俺、完全に木下さんのペースにはめられてる。またしても!
「自業自得だ。身から出た錆。俺に火をつけたおのれの迂闊さを胸に手を当ててよーく反省するこったな」
 そういや兄貴、木下さんに火をつけたくないって発言してたっけ。本気モードは恐ろしいって。ひいい。どーなっちまうんだよ俺! 若いみそらで儚くなりたくねーよ。女の子とつきあったこともねーのによお!
 どつぼにはまってとっぴんしゃん。ふらつく俺の体を、涼平が支えてくれた。
「涼平。俺がんばる。がんばるぞ!」
「う、うん、ちょっとばかり方向性を修正したほうがいいと思うけどね」
 そうだな作戦を立て直さないとな。今回は撤退だ。退陣するのもまた勇気だっ。

 木下さんの車が走り去るのを見送って、俺はひどい疲労感をおぼえた。
「だから結局なにしにきたわけ、あの人は。よほど暇なのかなあ」
 兄貴が呆れたような身ぶりをしたが、黙殺の方向で話をすすめる。
「それにさ、いつの間に兄貴たち連絡取り合う仲になったんだよ」
「あの人けっこう周到なんだよな。外堀から抜かりなく埋めていくタイプだ」
「完封の悪魔だっけ。って呼ばれてたんだってさあの人、学生時代に」
 後半は涼平に向けて説明した。
「しっかしああいうバトルする人じゃなかったんだがな。ずいぶん丸くなったもんだ。なるほど天然はすべてのものを脱力させるとみた。あらゆる術を無力化する獣魔みたいだな」
 それ俺のことか。「3×3 EYES」のクーヨンか。
「兄貴はさー、やっぱ木下さんの味方なわけ?」
「中立的立場で見守ることにした。そっちのほうがおもしろいしな」
「俺が涼平と作戦会議しても情報もらさないよな」
「お手並みを拝見するだけにしとくよ」
 兄貴は愉快そうだ。いつもクールでさめてるキャラだと思っていたのに。ここ最近とみに再発見が多い。
「涼平君も大変だと思うが、がんばれな」
 突然涼平に同情的な態度だ。兄貴の考えることはさっぱり不可解だな。涼平は苦笑に近い表情を浮かべる。
「はい……。やれるだけのことはやってみます。たとえ負けてもそれほど敗北感に打ちのめされることないと思いました、さっき」
「なんだよお、弱気だなあ」
 俺はぷーっと頬を膨らませた。
「あの人といい、涼平君といい、まったく難儀な道を選ぶもんだなあ」
 兄貴の言に、涼平が小首をかしげるようにしてしみじみとこたえた。
「そうかもしれませんね」
「なんの話?」
「それを口に出せるほど俺はお人よしじゃないんだよ、コウちゃん。残念ながらね」
 頭のいい人間は謎のことばかり言うから困る。とんち比べか禅問答か?

20060729
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