第10話 マッドバイターはにあわない。1
俺たち四人はコンビニを出た。これ以上騒いだらつまみ出されかねない。いやうるさいのは俺ひとりだけか。できることなら気づきたくなかった事実だ。これを全精力をかたむけて無視したい。
「コウちゃん、ごめんね」
コンビニの駐車場で涼平が申し訳なさそうな顔をするのに、俺は忸怩たる思いで首を振った。
「いや、俺のほうこそ」
涼平はやっぱり優しい。となると諸悪の根源は木下さんなんだ、ぜってーそうだ。ほんっとーに憎ったらしいったら!
「よし、今度こそあの人をやっつける算段を立ててやる!」
涼平にだけ聞こえるように決意表明をしたら、涼平が小声で返した。
「俺もあの人には勝ちたいな」
「なんで? 気が合いそうに見えるけど?」
「まあ好みは一致してんだろうな」
「ふーん?」
「だけどコウちゃんだってあの人と親しそうに見えるよ?」
「うーん。そういうもんか。じゃあ共闘しよっか?」
「いいね」
共犯者めいた心持ちで笑い合った。
「なーにひそひそ内緒話してんだ?」
後ろからがばっと木下さんが抱きついてきた。
「うわっ暑いんですけど!」
「うそうそ。冷房でえらく冷えてるぞ、お前の体。あっためてやろっか」
「どうやってですか?」
「友達の前で聞いちゃうんだそういうこと? いいのかなあ言っちゃっても」
「駄目ですって言えば、問答無用でこの場で実行するってだけでしょ?」
「あははー、たまには賢いじゃん。それなら予測どおりに事が運ぶのは楽しいだろ?」
予想が当たったからといって事態はまったく変わらないことをこの期に及んで悟るのが俺クオリティ。防衛策までは考えていないところに詰めの甘さが表れてるよなあ。
「あまりやりすぎるとコウちゃんに嫌われちゃいますよ?」
涼平の牽制にもあわてず動じず余裕しゃくしゃくだ。
「おやおやそれは困るナリー」
キテレツ大百科のコロ助か。ほんとはシュンスケのくせに。まったく、嫌われても仕方ないことしといてよく言うよ。俺はどうにかして木下さんをたじろがせてやれないかと、頭をせっせとフル回転させた。こういうときのために、これから毎日頭脳パンを食っとこう。DHAを摂取するのだ。
日曜日に兄貴に教えてもらったプランは、つまり木下さんにされたことの一歩上を行けっていうのが肝だよな。ていうことは、この状況下で俺がすべきことは……。
うげ、やっぱり俺も堂々と変態の仲間入りを果たすことになるじゃんよ!
でもここでやらねば一方的にやられるだけだ、ひらきなおれ、腹をくくれ、毒を食らわば皿までだ! 父さん母さん、今まで俺をマットウに育ててくれてありがとう。いざさらばまともな社会よ、さようならかたぎの世界よ。涙をこらえて心の中で今生の別れを告げた。