第2話 ドリームはもうみない。2
ピピピピピピピピピピピピ……
鳴り響く電子音。
ナイスタイミングでストップをかけてくれた恩人に等しい目覚まし時計をばちんと力任せにひっぱたき、俺は頭をかきむしった。
「なっ、なんつー夢を見てるんだ俺ってばあああ!」
もちろん、ファミレスで飯を食った後はなにごともなく別れた。俺を家まで送ってくれたのは本当だが、車中でもいつもどおり木下トークショー。ひたすら躁状態なハイテンションでかろやかにしゃべりまくった木下さんとアヤシイ雰囲気になりようはずもなかった。
なんなんだよもう。破廉恥なのは俺かよう。
机に目をやると、昨夜もらったエアプランツがそこにあった。こいつの呪いか?
ぐったりしつつ、適当に飯を食い、「笑っていいとも! 増刊号」をだらだら見ていた。
父親はゴルフ、母親は観劇、兄貴もどこかに出かけてしまい、俺ひとりだ。やさぐれた気分がまったく転換しない。
しかし休日だってのに、なに律儀に目覚ましかけてんだろ。もっとのんびり寝てればよかった。って。うわーいやいや駄目だ駄目だ、あの続きを見たら、二度とバイト行けねえよ。いいかげん夢を忘れろ、俺! 夢から離れろ、俺!
いつでも真面目で折り目正しいともっぱらの評判の俺が、どこをどうまちがえてしまったんだろか。
苗字が「桜田」、名前が「公葵」という取り合わせのおかげで、小学生のときに「徳川家みたいね」と担任に言われ、以来すっかりお武家の子キャラが定着してしまったのであるが。
もうやけだやけくそだやけっぱちだやけのやんぱちだ自暴自棄だ投げやりだ魔にさされてやる。俺は意を決し、テレビを消し、リビングのソファからむっくり起き上がり、兄貴の部屋に忍びこんだ。喫煙者の兄貴から、一本くすねて吸ってやるのだ。
幸い、テーブルの上にカートンが見つかった。中をたしかめると、ぎっしり入っているわけでもなくすかすかでもない絶妙な塩梅。これなら失敬してもばれないだろう。
ええと、どっちをくわえるんだろ、こっちか。
おあつらえ向きにその場に添えられていたジッポライターも拝借。あれ、火がつかないや。悪戦苦闘の果てに、どうにか先端に煙が立った。一本吸うだけでえらい苦労だ。
しばらく軽くふかしていたが、思い切って吸いこむ。思い切りすぎて、もろに肺に入った。ハイにハイった? って下手なしゃれをやってる場合じゃなかった。
うっ。
まっずうううううう!
毒じゃねえの?(まあ毒なんだけど。) 一服盛られたかと思った。よくこんなもん吸えるなあ!
涙目でげほげほむせながら、煙草のパッケージを見てぎょっとした。
こ、これ、やばいやつなんじゃねえの? なんで兄貴こんなの持ってんだよ? わあっどうすんだ吸っちまったよ!
あわてふためきうろたえていると、インターフォンが鳴った。とにかく灰皿で押しつぶして消火し、証拠隠滅のために自室のごみ箱に放りこみ、玄関へと向かった。
頭と足がひどくふわふわする。もう効いてきたわけ? 即効性?