ふるふる図書館


第1話 エアプランツにおねがい。2



 それで、この日がやってきた。
 服を選ぶのにてこずった。
 木下さんは、俺の高校の制服姿と職場のユニフォーム姿以外はあまり見たことないはずだ。どうしよう、どんな格好していけばいいかな。姿見の前であれこれ着ては脱ぎ、着ては脱ぎを繰り返した。足元では、いろんな色と材質の布の山がもりもり高くなっていく。母親が見たらデートだと思うだろうな。
 へ? デ、デート!
 馬鹿ちがうって、木下さんがどんな店に連れてってくれるかわかんないから、もし、もし万が一、高級なところだったら、安っぽい服だと浮くし恥かくし、だから慎重に選んでるだけだっての。ってひとりでボケツッコミしてどうすんだ。
 ふう、ぱぱっと決まらないなあ、センスないよ俺。なんでほかのと合わせづらいものばっかり買っちゃうんだろ。制服って楽でいいよなあ。
 いやいや、せっかく木下さんに休日に会うんだから。私服じゃなくちゃ。どうせなら、かっこいいのを。
 うー、全身黒だとかえって狙ったっぽくてださい。あー、このシャツ気に入ってるけど季節はずれだ。んー、このパンツだと靴に合わないな。
 そんなふうにしてもう、一時間も悩みに悩んで、迷いに迷って、黒い薄手のジャケットと細身のカーキのパンツを白いシャツに合わせて、大枚はたいた割にはふだんあまり使わなくて埃をかぶる寸前だったのを急遽みがいた純銀の大ぶりの指輪なんかもつけて。イヤーカフも。
 忘れずに、ブルガリプールオムもひと吹きして。もちろん、食事のじゃまにならない程度に軽く。
 そんな俺が。十八になった俺が。結婚だってできる歳を迎えた俺が。
 連れられていったのは、ファミレスだった。
 ファ・ミ・リ・イ・レ・ス・ト・ラ・ン!
 まあ、そうだよなあ、木下さんだもんなあ。はあ、何期待してたんだろ。
 おまけに、プレゼントはマリモモドキだしさ。たぶん200円もしないとおぼしき。きっと国道16号沿いのDIYショップに売ってたんだ、外のさびれたしょぼい園芸売場のとこのさ。そーだそーに決まってる、カー用品のついでに買ったんだ。
 食べ終わった料理の食器はとっくのとうに下げられて、ちょこんと鎮座ましましている生死不明にしか見えないエアプランツと、お代わり自由のドリンクバーで汲んできたオレンジジュースが入ったタンブラーばかりがテーブルに乗っている。俺のも木下さんのもすでにドリンク三杯目だ。
 土曜の夜のファミレスはたいそう混雑している。いかにも金遣いを節制している高校生やら若いカップルばっかりがやかましく騒いでいる。
 ん? 待てよ俺らもどんぴしゃりにはまってんじゃん、高校生と二十代の社会人。カップルかどうかはおいといて。おまけに一名、大声で傍若無人にしゃべりまくってるし。それでいて溶けこむどころか目立ちまくってるし。
 うわ。うわあ。すげブルーな現状把握。マジブルーな分析結果。マジブルーてのは「魔法戦隊マジレンジャー」の次女ではない。

20060706
PREV
NEXT
INDEX

↑ PAGE TOP