ふるふる図書館


おまけ

嫌よ嫌よ、も



「はーやく来い来いクリスマス~」
「何を歌ってんだ」
「げ。玲、いつからここにいたんだよ」
「商店街で白昼堂々、人目もはばからずに変な歌をくちずさんでいる人間へ親切に忠告してやった結果がその言い草か?(氷のような視線)」
「……ま、まさか丸聞こえだった?(真っ赤)」
「ふん、安心しろ。お前があほうだというのは周知の事実だから、今さらどんな言動を取っても他人の評価は変わらんぞ。よかったな」
「ちっともフォローになってないって……」
「しかしまあ、ずいぶんと買いこんだものだな」
「うん、今伯母さんとクリスマスの買出ししてるんだ。おれは荷物持ちだけどさ。あ、噂をすれば」
「ごめんねー知世ちゃん、待ったぁ? パン屋さんでね、おまけしてもらっちゃってたの。あら玲君、こんにちは」
「こんにちは、さすが美人は得ですね(さわやかににっこり)」
「まあやだわ、玲君たらお上手ね。うふふふ」
「ええ、ええ、実にお上手だこと、変わり身が(ぼそり)」
「玲君みたいなきれいな子にほめられると、お世辞でも恥ずかしいわ。そうだわ、クリスマスは何かご用事がおありなの?」
「いえ……」
「いやいやほんと、こいつはクリスマスは誘いの引く手があまたなのっ。もてもて! ひっぱりだこ! 大忙し! てんてこ舞い! 体がいくつあってもたりないくらい!」
「あらあら。そうよね。うちのホームパーティーにご招待しようと思ったけれど、そういうことなら」
「(ほっ。助かった)」
「……ひどいな。そういう目でおれのことを見ていたのか」
「はい?」
「クリスマスの楽しみ方なんて知らずに育ったんだぞ。家でごちそうを食べたこともない。おれにとってはふだんとまったく同じように過ごす一日だ。なぜみんなが浮かれて騒ぐのかさっぱりわからない」
「う……(絶句)」
「そうだったの。そういう事情なら、なおさらお呼びしたいわ。知世ちゃんもそうでしょう? お友達のためですもの(無邪気ににっこり)」
「そ、そうだね(別に友達じゃないのに、なんてこの笑顔に向かって言えない……)」
「お招きありがとうございます。楽しみにしています(優雅に一礼)」
「そうとなったら、少し食材を買い足してこなくちゃ。行ってくるから、知世ちゃんはここで待っててね」
「はーい。行ってらっしゃーい(力なく手を振る)」
「……ということになったからよろしくな」
「お前なあ、同情を買うような演技やめろよ」
「事実をありのままに述べたまでだ」
「おれにはあんなこと一度も言ったことないくせに」
「ほう、聞きたかったのかそれは知らなかった」
「聞きたくない聞きたくない」
「じゃあ、そのうち話してやる」
「いりませんってば。まったくもってこれっぽちも。丁重にご遠慮申し上げますからっ」
「なんのなんの気にするな、単なる嫌がらせだから」
「はあ。さよですか(ぐったり)」
「はーやく来い来いクリスマス~」
「まねするなよ……(げっそり)ほんとに、ほんとーにクリスマスは予定なかったのか?(疑惑のまなざし)」
「入れるとしたら、有閑マダムか金持ち親父とデートして豪勢なディナーをおごってもらってその後ホ」
「ぎゃああ、ストップストップ! なんかわかんないけど、ものすごく知りたくない世界のような気がする! わかったわかったうちに来い! 健全なクリスマスの過ごし方を教えてやるから(あー、おれってばお人よしすぎる……)」。

20071224
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