063
寒いのかアキはすっぽりと頭から毛布をかぶっていた。
ふとんをかけなおして、僕は寝室をあとにし、台所へと向かった。
無意識のうちにアルコールに手をのばし、気を取り直してやかんにお湯をわかす。
ひとりで暮らしていたころは、精神的に弱っている夜にはいつもお酒を口にしていた。
今も無性に飲みたかった、でもだめだ。
酒を摂取すれば、思考が停止する、逃げ道ができる。そんな甘いことを自分に許すつもりはない。
僕は罰されなくてはいけないのだから。アキの信頼にそむいた僕は。
アキの心がさらに退行したのは、僕が原因だ。
またアキは幼くなった。自分の爛れを打ち消すように。淫行を否定するように。
何があっても、アキはきれいで、美しくて、凛としていて、品格があって、崇高だ。
子供のときからそう伝えていたのに、あの一瞬の裏切りが、すべてを台なしにした。
でもねアキ、今でも僕は同じ気持ちだ。
人間のものとは思えない悲痛な声でわめきながら、髪を振り乱してあの男に殴りかかっていったときも。
排泄がうまくできなくて、僕に下の始末をされているときも。
僕にとってきみが神聖な存在であることに変わりはない。
もし、きみがいかがわしいことにふけっている現場を目撃してしまったとしても、おそらくこの思いが曲がることはないんだろう。それどころか、ばかみたいにうっとりと見惚れるかもしれない。
自分で想像したことにひとり赤面して、ごまかすように乱暴な手つきでカップにお茶を注いだ。
窓から空を見上げた。晴れているのに月の姿はない。新月だ。
かまやしなかった。僕の月がここにあるから。冷たく清らかな、汚れないアキが。
ああ、僕はやっぱりいやしい人間だ。こんな甘美でこころよい懲罰があっていいものか。少しも戒めになってないじゃないか。
カーディガンの前をきつくかき合わせた。
外に広がるだけではない、闇夜は僕の心の中に巣くっている。僕を蝕み、侵食し、飲みこんでいる。
蠱惑に満ちた青い光を、あわれなほど、待ち焦がれている。
月を、失いたくない。