ふるふる図書館


とうきょうambivalence



空をみあげ、雲をかぞえ
鳥をながめ、星座をたどり
ぼくの思いは はるかなたかみへかけのぼり
はるかなかなたをかけめぐり
手をのばしさえすれば
どんな果実ももぎとることができるのだと信じていた
あのころは、あのまちで。

きらきらきれいな とうきょう
おもちゃばこみたいな とうきょう
なのに
ぼくのこころはみたされることなく
みたされていないことに気づくこともなく
なんの思いがわきあがることなく
なんの思いもわいてこないことをかなしむこともさみしがることも忘れて
いる。

ぼくの思いをすこしずつ食らってゆくのだ
そうやって増殖するのがこのまちのやりくちなのだ
だから
ここを捨ててしまえば思いをかなえることはできないよと
ものやさしい顔で説き伏せてみせるのだ
それは正しい、たしかに
ぼくの思いをかなえる手段をこのまちは持っている。

かなえる手段を得て
かなえたい思いは失う
でも たぶんもどれない
まだなにも手にしていないのに胸おどらせていた
あのころには あのまちには
今は、まだ。

上からふたをされたようなとうきょうで
空をさがし、ひとりみあげ
ほんのつかのま息をつく
なくしたものを 完全に忘れてしまう前に。

20060305
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