ふるふる図書館


-273.15°Cの夜



 絶対零度の宇宙の中を、ぼくは泳いで夢をみる。
――Absolute Zero, Absolute Zero, Absolute Zero...

 テレヴィジョンのブラウン管は、もう砂嵐しか映し出さない。
 きみのすがたをさがしてみたけど、たどる指さきにスパークが、ちいさくはじけただけだった。
――sparkle, sparkle, sparkle...

 ラジオゾンデをきみは見上げる。
 ぼくの合図に気がついて、受け取めてくれているのだろうか。
 それともきみは、数字の羅列でできた記号にすぎないのだろうか。
 ふたりの距離はこんなに遠い、星座にすらなれないほどに。
――drift, drift, drift...

 空から降る降る粒子の軌跡、ぼくのからだをつきぬけて、おいこしてゆく宇宙線。
 手もとのグラスに一瞬またたく、チェレンコフ光を見つけたら。
 きみをめがけてまっしぐらに落ちたぼくのかけらなのだと、きみはわかってくれるかい。
 誰もしらないひそかな暗号。
――twinkle, twinkle, twinkle...

 墜落してゆくぼくを、アンテナがつかまえる。
 ベッドがぼくをうけとめて、いつものように目をさます。
 枕もとには、したり顔して朝のニュースを流しつづけるトランジスタラジオ。
――noisy, noisy, noisy...

 きみはいない。
――noiseproof, noiseproof, noiseproof...

 きみはいない。
――Absolute Zero, Absolute Zero, Absolute Zero...

20060321
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