ふるふる図書館


automata syndrome



 きりきり。きりきり。
 ねじのほどける音がする。
 つばさのかたちをしたねじは、背中についている。
 おかげでぼくは、いつも横向けに眠るしかない。

 きりきり。きりきり。
 歯車のまわる音がする。
 いろんな大きさの歯車は、体内で休まずからみあう。
 おかげでぼくは、しずかな夜をすごしたことがない。

 きりきり。きりきり。
 惑星くるくるまわすのは誰。
 地軸を持って、こまみたいに。

 きりきり。きりきり。
 ぼくのぜんまい巻くのは誰。
 つばさをまるで、ねじきるみたいに。

 きりきり。きりきり。
 夜すがら、耳をはなれない。
 きりきり、きりきり、歌う音。

 ――ここのところ夢ばかり見て、ちっとも休んだ気がしないんだ。
 昼ひなかは、眠くて眠くてたまらない――
 ぼくは、友人に訴えた。
 おかしな話だ。
 目がさめると、ぼくはちゃんとあおむけになっているし、不思議な音もきこえない。
 友人は、存外まじめな顔をして、ぼくにじっと視線をあてた。
「きみが眠っているところなど、一度だって見たことがないよ。」
 ――まさか。そんなわけないだろう――
 だってぼくは、毎晩夢を見るのだ。
 ひとみは、すきとおったすみれ色したガラス玉。
 ひじにもひざにも、はめこまれているまるい玉。
 このぼくの姿と、あまりにもちがいすぎている。
 そのはずだ。
 なのに。
 友人はことばをつづけた。
「わかりきったことじゃないか。眠らないものだよ。人形は。」

 ああ。
 眠くて眠くてたまらない。

 ぼくの体は、ぱたりとくずれた。
「ねじがきれたな。」
 友人の手がぼくを抱き上げ、ひざにのせる。
 背中にまわり、慣れたしぐさで、ぼくのねじを巻く。
 きりきり。きりきり。
 今は夜なの。これは夢なの。
 きいてみたいのに。
 ぼくののどは、もう声を送り出さない。
 そういうふうに、世界のぜんまいを動かしていたのはきみなの。
 たずねてみたいのに。
 ぼくのくちびるは、もう声をつむがない。
 次第にはっきりしてゆくひとみが、ただ友人を見つめているだけ。

 きりきり。きりきり。
 体がかわりに歌うだけ。

 きりきり。きりきり。

20060304
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