ふるふる図書館


おまけ6 エンドレス・ハピネス



 コウちゃん発見。
 今日もせっせと一生懸命に働いている。書棚のところにしゃがんで、下の引き出しから黙々と商品を出している。何このちんまりした後ろ姿、なんだか小動物みたい。コウちゃんだけにこうさぎ。なんてつまんない洒落はさておいといて。こっそり後ろから忍び寄ってみようかな。
 ああ、後ろをお客さんが歩いてるよ。気をつけて。気づいて。
「わっ、すみませんっ」
 俺が送った念もむなしく。本を抱えて立ち上がろうとしてお尻がお客さんにぶつかってしまった。
「いえ、大丈夫です」
 若い女性客が手をひらひらさせながら笑った。
「本当に、すみませんでした」
 ぺこぺこと頭を下げるコウちゃん。
「平気です」
 お客さんがにっこりして、コウちゃんもにっこりして。
 ああ。俺もそんなふうに何度も何度もコウちゃんと接した。客と店員として。だけどコウちゃんは俺のこと、全然おぼえててくれなかったんだったなあ。
「あ。涼平」
 俺がひとり冬の日本海の荒波を前にしたような心持ちでしょんぼり黄昏れてるうちに女性は去り、コウちゃんが俺を見つけてくれた。
「いつからいた? ごめん、気づかなかったよ」
 そうだろうね。俺のことは眼中にないんだろうね。
 コウちゃんはほっぺたをうっすら赤くして上目づかいした。
「今の、見てたんだろ?」
「んん。まあね」
 俺がうなずくと、恥ずかしくなったのか、持っていた本に顔を埋めてしまった。エプロン姿で赤面しながら本を胸に抱きしめるコウちゃん、だめだ可愛すぎて萌え死ぬ。俺を殺す気だろうか。
「そんな気にすることないのに」
 本心から言った。なのに慰めだとでも思ったらしく、コウちゃんはむうっとふくれて唇をとがらせた。
「涼平はさ。何でもそつなくこなせるタイプじゃん。あせったりしてるとこ想像つかねーしさ」
「そんなこと」
 ないよ。ないない。
「いいよなあ涼平は。かっこいいし頭もいいし背も高いし」
 俺、コウちゃんにうらやましがられてる?
「あっ別にひがんでるわけじゃねーからっ」
 俺の表情をどう解釈したものか、コウちゃんが首をぶんぶん振って話題をかえた。
「そうだ、俺もうすぐ給料入るんだ。どっか食べに行かね? おごるからさ」
 知ってるよ、もしコウちゃんが俺にあこがれるようなことがあっても、俺のことを友人としてしか見ないって。
 だけどこのくるくる変わる表情だとか、全開の笑顔だとか、声だとか。それを「客」じゃなくて「大野涼平」に向けてくれるんだから、俺は、幸せなんだよ。

20080705
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