ふるふる図書館


おまけ5 ときめきエプロン



「あっ、わかった」
 俺は唐突にひらめいた。脳裏に電撃が走ったんだ。ぴきーんって。まさにガンダムのニュータイプみたいに。
「なにがわかったんだよ」
 カフェ用エプロンについてまだ谷村さんと何事か議論をかわしていた木下さんが問いかけてくる。
「木下さんのことです」
「俺のこと?」
 自覚がないんだこの人は。一刻も早く気づかせないといけない。大変なことになる。俺は重々しく宣告を下した。
「木下さん、エプロンフェチですね?」
 ぷっ。吹いたのは谷村さんだった。
「えぷろんふぇち……」
「だってそうでしょ。俺の書店用も、カフェ用も、自宅用も愛でてたじゃないですかっ。前々から疑惑を持ってはいたけれど、やっぱり変態だったんですね。もしかしたら、ここに就職したのもエプロンめあてじゃないですか?」
「お前ね。我が社は書籍販売に留まらず、多岐にわたる事業に着手してるんだぞ。販売部門に配属されたからといって、運よく売場にまわされるとも限らないんだ」
「へえ。さすが大手ですねえ。って。今、運よくって言いました? ねえ、言いましたよね? うっわ。俺、木下さんちにごはん作りに行くときは、マイエプロン持参しますから。用意しなくて結構ですから」
 とんでもないブツが待ち構えていたらおそろしい。ごくごくシンプルあっさり仕立てのエプロンを持って行こうと意を決した。劣情を煽って火をつけてはいけないんだ。更生への道が絶たれる。
「ふーん。べっつに。なんでもいいよ? エプロンなんて」
「そうなんですか?」
 不信感丸出しな俺。
「誰が着るかが重要なんだもーん。エプロンだけじゃ萌えないもーん」
 強がっちゃって。ごまかすことないのに。木下さんがエプロンマニアだからといって、今さら心や態度を豹変させるような俺じゃないんだ。
「ほんとーだよお。うそじゃないよお?」
「なにフェチで、なに萌えかはっきり教えてやればいいだろう」
 谷村さんが木下さんをつっつく。
「ほら、やっぱりなにかのフェチなんじゃないですかっ」
 木下さんじゃさっぱり埒が明かないから、谷村さんに話を振ろうとして、間一髪、思いとどまった。危ない危ない。グッジョブ俺。
「あ、いやいや聞きたくない、聞かないでおきます。世の中知らないほうが幸せなこともあるといいますし!」
「いいの?」
「いいです」
「木下もいいのか?」
「本人がやだって言うんだから」
 谷村さんがおかしそうに肩をすくめた。
「あーあ、本当にじれったいなお前たち」

20080615
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