ふるふる図書館


おまけ4 あこがれエプロン



 俺のバイト先の書店が、カフェを併設することになった。
 フロアの片隅が改装され、飲みものや軽食を提供するコーナーに変わった。
 俺はそちらの担当にまわることになった。もちろん、今までどおりに書店の仕事もある。割合としては半々くらいか。
 まあ、新しくバイトを募集するよりは楽なんだろうな店側も。俺にとってもラッキーなことこの上ない。書店をやめないですむし、飲食関係の仕事もできるし。願ったり叶ったりだ。
「ふーん」
 木下さんがカフェの制服を着用した俺のことをにかにか笑いながら観察した。ご満悦だ。
「やー、いいじゃんいいじゃん。そのデザインにしてよかった。特にエプロンが絶妙だなあ。その丈のぷりっとした短さといい、前で結んだひものちょうちょ結びの可憐さといい」
 書店担当とカフェ担当ではデザインがちがうのだ。
「木下さんも選んだんですか?」
「うん。お前に似合うのを第一に考えた。とーぜん最優先事項だ。いいねいいね、可愛い可愛い。写真撮っちゃおっかなあ」
 う。
「そういうことですか」
「ん?」
「俺に合えば誰にでも合うってことでしょ? 俺が最低基準ってことでしょ。そりゃ十人並みってわかってますけどっ、でも人三化七ってほどでもないと思ってました……」
「ああん? なに言ってんだよお前」
 言いつくろおうとしているらしい。隠しても遅い、その態度がなによりの証拠だ。
「木下」
 やり取りを聞いていた谷村さんが、木下さんの肩にぽんと手を置いた。
「お前って案外苦労してんだな」
 真顔だ。
「なんのなんの。これが楽しいんだよ。ふっふふふ」
「マゾ」
「おほほほ。なんとでも」
 さっぱり不可解な会話を続ける大人ふたりをよそに、俺は今日もバイトに打ちこむのだった。

20080525
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