ふるふる図書館


おまけ3 ババンババンバンバン 歯みがけよ!



 ばしんと突然、後頭部をしばかれた。
 わっ、しまったっ。木下さんちに宿題教えてもらいにきたのにぐーぐー居眠りなんて、そりゃけしからんよな俺……。
 でもさ、このわけわかんない字の羅列は睡魔の使い魔だぜってーそーだ。おまけに現実味あふれるナイトメアまで見せやがって。
「なんの夢見てたんだ?」
 ラーマソフトみたいにいつもどおりのかるーい声だけど。やっぱ怒ってるみたい、顔が少し赤いかも。
 よしここは一丁、したてに出とこ。
「よくわかりましたね、すごいなあ」
 まずはほめといてっと。
「バイトの夢。俺が整頓した本を、お客さんが次々に棚から抜いて、別のところにぽいぽい置いていくんです。どんなにきちんと戻してもね、あとからあとからわらわらわらわら。無限じごくです。うう、怖かったぁ……」
 寝ぼけぶりをアピる。まあ、まだひどくぽやーんとするのは事実だし。
「起こしてくれて助かりました」
 俺が居眠りしてたから怒ったのに、俺のピンチを救った話にすりかえるなんて俺もけっこー悪よのう。くっくっく。ブラック公葵降臨。後ろめたくなんかねーもんね、こーして人は大人になってくんだ。
 と。不意に木下さんが俺のほっぺたにそっと手を添えてきた。
「きのした、さん?」
 わけがわからず木下さんを見返した。
 なんだこのシチュエーション? なにも言わずに見つめ合って。
 やば、照れてまうがな。たっぷり残っていた眠気を必死の思いで総動員した。動揺と狼狽を根性と眠気でカバーだ。
 そしたら。
 木下さん、なにやら呪文みたいな言葉を唱えだした。え? 木下さんって魔法使い? 俺、子豚にでも変身させられちゃう?
 ぶーっ。
 木下さんがこれまた唐突に吹いた。
「顔にばっちり転写されてんぞ、お前がシャーペンで書いてた字。あーあ、跡がこんなにくっきり」
 あ。今のは呪文じゃなくって、ナントカ定理ってやつか。
 一瞬でも本気で怯えた自分が馬鹿だ。馬鹿だ。んっとにもう馬鹿だ。心にやましいことができてびくついてんのかな。
「え、うそ。顔、洗ってきます……」
 この期に及んで、ようやく堂々と赤面することができた。
「おー、早く洗ってこい」
 言う割には、なかなか手を離してくれない木下さん。早く解放してくれないかなと思う割には振りほどけない俺。
 こちこちこちこち、時計の秒針がふたりの沈黙を埋めるばかりだ。ああ、どう収拾つけてくれんだこの状況……。

20080311, 20080525
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