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エアプランツにお願い!お試し読み



※序盤より抜粋、ところどころ中略


「なーんだよぉ、冴えない顔してー」
 俺のほっぺたを、向かい側から手を伸ばして木下さんがむにいっとつねった。ムカツクくらい楽しげだ。
「痛いですやめてくださいよ子供じゃあるまいし」
「子供だろお? ああいいなあ、このぴちぴちぷりぷりぷにぷにしたお肌。コラーゲンたっぷり。やー若い若い」
 子供はそっちだっ!
「人をフカヒレみたいに言わないでください」
「そーかそーか食っていいのか。お言葉に甘えておいしくいただいちゃおっかなー」
 げ、なに言い出すんだよ!
「だってーおいしそうだもーん」
 げげ、隣のカップルがじろじろ見てる。くすくす笑ってる。ひそひそ話してる。恥ずかしいって! むやみやたらと地声がでかいから、会話が筒抜けなんだってば!
 くそう、この人をなんとかおとなしくさせたい。いや、なんか本気でうろたえさせてやりたい。一度でいいから。
「木下さん。十八歳の抱負が決まりました」
「へえ? なんだ?」
「ふふん、秘密です」
 意地悪したつもりなのに、拗ねもしないですこぶるゴキゲン。やっぱり悔しい。憎たらしい。度肝を抜いてやりたい。一泡吹かせてやりたい。ギャフン(死語)と言わせてやりたいっ。
 あーっ、もう、さっさとその手を離せ。
 心の叫びが聞こえたか。
 急に、木下さんの指が頬から移って耳に触れた。びくっとした。反射的に「ひゃっ」と悲鳴を上げて目をつぶって首をすぼめてしまった。猫かよ俺は。
 反応と感度のよすぎるおのれを呪いながらまぶたをあけると。
 木下さんは笑ってなかった。
 まただ。また、あの真顔。あの目。すーっと吸いこまれるような瞳。なんていう色なんだろう、琥珀色? 蜂蜜色?

 ★★★

 混乱しすぎだ俺、落ち着け、静まれ、頭を冷やせ! どうして俺のほうが心臓バクバクさせてなきゃいけない? まちがってる、激しくまちがってる!
 俺はがっくりテーブルにつっぷした。目だけ上げて木下さんをにらむ。
「アンタってなんでそういうことするかなあ!」
 三白眼を作って真剣に立腹しても、
「なんのことだよひょうきん者だなあ、お前は」
 木下さんはすっとぼけてへらへら笑うだけ。
 絶対! 絶対木下さんを参りましたって言わせてやるんだ!
 俺は大人になって木下さんを見返してやる。木下さんに勝つ。優位に立つ! 倒す!
 みてろよ。その暁にはざまあみろって高笑いしてやるんだからっ。

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