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アキは、僕の画集を眺めるのが好きだ。今日は、ユトリロの本を借りていった。
よく日光が当たるところに移動して、そこで寝そべったり座ったりしてページを繰るのだ。まるで猫みたいで、僕はいつも笑いを噛み殺す。
気づくとしんと静かだったので、読んでいた経営学の本から視線を上げて、振り返った。
全身に午後の光を浴びながら、アキはうたた寝をしていた。
クッションにもたれ、ベッドに寄りかかって。
長いまつげ、すっきりと通った鼻梁、かたちのよい唇、目の下の小さなほくろ、腕の傷跡。あの日からほとんど変わっていない。
アキをモデルに、ここでデッサンをしたときから。
あの時代が、あんなに遠くに離れてしまった。アキはこんなに近くに来てしまった。
なのに僕はまだ、アキに触れるのをためらい続けている。
今降りそそいでいる日ざしのように、あたたかく、やわらかく、やさしく、純粋に、無心にアキをつつみこむことが、はたして僕の手と腕はできるのだろうか?
幼いアキを、思う存分甘えさせてあげたいという切望と裏腹に、アキがじゃれかかってくると、僕の心はふるえる。アキの髪がかすめると、僕の指はふるえる。動揺と、胸の高鳴りを押し隠そうとして、不自然な態度になり、アキを不安にさせる。
アキが寝返りを打った。気持ちよさそうにすうすうと息を立てて、子猫めいたしぐさで丸まっている。
どうか、アキの眠りが安らかで、健やかでありますように。明るく偉大な太陽を思わせるナツのようにはふるまえない僕は、うじうじと悩み、ただひたすらそっと祈る。
出し抜けに、ぱちりとアキの両目がひらいた。
「お勉強終わったの?」
明瞭なまなざしと声で問う。
「あ、うん」
「一緒に日向ぼっこしない? あったかくって、気持ちいいよ」
アキが誘うので、並んで座った。
「ほんとうだ、ぽかぽかしてる」
「ね」
こちこちに固まったわだかまりが、すっとほどけていくような心地よさをおぼえて、僕はゆっくりと吐息をついた。
ふと重みを感じて視線を移すと、アキが僕に寄り添い、肩に頭を預けて、再びうつらうつらしていた。
僕は手をのばして、アキの頬にかかった髪をかきあげた。いつもよりも逡巡のない、自然な動きになったのは、この陽だまりの恩恵にあずかったためだろう。
目を閉じたままのアキが、いとけない表情でにっこりと微笑んだ。