第二章
月からしたたる銀の粉が降りそそぎ、木の葉にはねかえる澄んだ音が聞こえてきそうな夜更けだった。
ユーリはジュリと一緒に、風にふかれながらあてどなく街をそぞろ歩いていた。
洋館の立ち並ぶれんがづくりの並木道。奥に廃墟を隠していて、入ることを禁じられた森の入り口。いつも飼い犬のユンを散歩に連れていく小さな草原。
「太陽から月に支配が移ると、世界は変わるものなんだね」
ユーリははしゃいだ声を上げた。昼間にしか外に出たことのないユーリにとって、家人に黙って家を抜け出し、夜に散歩をするというのは、胸が高鳴る大きな冒険だった。
対照的に、ジュリはほとんどしゃべらなかった。猫のようにするりと闇にまぎれ、夜を縫って歩いていった。
静まり返った屋敷街に、靴音を響かせたくなくて、ユーリは意識して忍び足をしていたが、ジュリはひそやかに歩くことがいつもの習慣であるかのように、自然な歩みだった。
ジュリには夜がよく似合う、とユーリは感じた。もともと血の気が感じられない横顔に、ガス灯の明かりが反射して青白く、ほのかにかがやいているようすは、月を思わせた。
その頬に触ってもいいだろうか。ユーリは指先をのばした。
ジュリは、すばやく身をひいた。
水の中で魚をつかまえようとする感覚だった。あと数センチで触れることができる距離なのに、冷たさだけを残して悠然と身をひるがえす熱帯魚たち。ジュリの瞳も表情も、魚と同様、少しも変わらない。
ユーリはゆっくりと手をひき、目をふせてつぶやいた。
「ごめんね。怒ってるの? ぼくが、無理言ったから。夜中に散歩したいってせがんだから」
返答はなかった。つぶやきは、ささやき声になった。
「ジュリ君、ぼくのこと嫌いだろう。いつも気まぐれにぼくのところにやって来て、いつも黙ってぷいと帰ってしまうじゃないか。ピアノの鍵を持っていったのも、きみだね。ぼくはもうずいぶん長いこと、ピアノが弾けないんだ」
「あんたは、人に嫌われたり、拒まれたりしたことがないんだな。だからそんなに傷ついた顔をしている」
「そう、かな。そうかもしれない」
ユーリはかすかにうなずいた。自分でも意外なほど、弱々しく、たよりなく。
ジュリの糾弾は続いた。
「裕福な家に生まれて、家族に溺愛されて何不自由なく育てられて。苦労も、思い通りにいかないことも、まったく経験したことがないんだろう。
そうして、ちやほやしてくれる人たちに囲まれて、お気楽に生活してきたんだ」
「でも!」
ユーリは顔を起こし、強い口調で反論した。
「でもぼくのことをわかってくれるのは、ジュリ君だけしかいないよ」
「なぜそんなことが言える」
「わかるんだ、どうしてかはわからないけど、わかるんだよ」
ジュリの表情は彫像のようにゆらがず、声音は冷たい石のように硬く澄んでひびいた。
「おれはあんたが嫌いだ」
「知ってる。それでもいいんだ」