ふるふる図書館


第9話 ロンリーウルフはふりむかない。2



「あ、はじめまして、俺は大野涼平といいます。コウちゃんの幼なじみで」
「はい、はじめまして。公葵の兄です」
「木下さんは? なんでここにいるんです?」
 初対面の挨拶をしているふたりをよそに尋ねると、やっと手を休めてくれた。
「まあ飲めや。あえぎっぱなしで、のど渇いたろ」
 俺のジュースを差し出してくる。一気に飲み干したら、ストローの先から盛大にずずっと行儀の悪い音がした。さりげなく木下さんと間合いを取りつつ確認作業をしてみる。
「帰りしなのことで気を悪くしたんですか?」
「べっつにー。ぜーんぜん。さーっぱり、なーんにもこれーっぽっちも?」
 俺に対してはいつもの口調だ。気にしてないのかよ。俺があんなに悩んだのに、それはそれでムナシイ。宮本むなしは定食屋。
 木下さんは俺の手から空になった紙パックを取り上げ、ストローを抜いてくわえた。ちょっそれって間接……と思春期の中坊みたいなことを思う間もなく、そのまま吹き矢よろしくふっと息を吹く。その標的はまたしても俺の耳。
「ぎゃあっ!」
 油断しきっていた俺は性懲りもなく仰天し首をすくめてとびあがるという離れ業をやってのける羽目になった。
「本当に仲よさそうだね」
 またもや涼平がかんちがいした発言をかました。
「だからちげーよ! どこをどう見たらそう見えるんだよ? こんなにいじめられて虐げられていびられていたぶられてからかわれてんのにっ」
「ああいうことされたくないの?」
「当たり前だろ!」
「なるほど、されるよりするほうが好きなんだ?」
 ん? またはたと考えこんでしまう。どっちなんだろ。っておい待て、考えてしまう時点でなにかがすでに終わってるような気がする。
 でも木下さんに一度こっちから仕掛けたときの記憶は飛んでるから、どんな心持だったかわかんねんだよな。ううむ。などときっちりしっかり悩んでしまう俺。
「だったらさ、実験する? 俺にいろいろやってみて確認してみればいいんじゃん」
「涼平に? 俺が?」
「うん」
 涼平はちょっと首をかしげるようにしてうなずいた。これも冗談の続きか。だよなー、こんなことマジじゃ言えねって。
「なるほどそーしよっか」
 調子を合わせた俺のほっぺたはソッコー木下さんの餌食になった。
「痛! なんでつねるんですかっ」
「さーあね?」
 さっきから俺って満身創痍じゃね? ひりひりするほっぺたをさすった。まちがいなく根に持ってるなこれは。木下さん目が怖いし。この場はとにかく謝っとこう、不本意きわまりないけど。体がいくつあっても足りなくなるうちに。
「俺が悪かったです、すみませんでした。だからいいかげん機嫌直してください」
「俺はゴキゲンだぞ? ルンルンだぞ?」
 花の鍵で変身でもできんの? それいつの時代の言葉だよ?

20060726
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